賭けゴルフは良くないです。ところで、オリンピックって賭け方、ご存知ですか?
僕は握るのが嫌いです。
成り行き上、仕方なく握りを受けなくてはならなくなった時だけ、乗っかることにしています。
握りの種類やルールにも色々ありますが、ゴルフの腕前にまあまあの差があっても、そこまで勝敗に影響が出ないのが【オリンピック】という賭け方。
グリーンに乗ったら、カップから遠い順に 金・銀・銅・鉄 と得点が決まって、1パットで入れた場合だけ、その得点を獲得できるルールです。
上級者はアプローチでカップに近いところまで寄せてしまうため1パットで入れても得点が小さく、大きな得点を取れるチャンスも少ないので、ゴルフの実力よりもその日のパターの調子の方が勝敗に影響してくる、割と公平な握り。金・銀・銅・鉄の全種類を集めると役がついて高得点になったり、同じ種類を4つ集めても役がつくなど、調子や運によっては上位と下位で得点に結構な差も出ます。
オリンピックで1万円も負けるってのは、結構ヘコみますよねぇ。
僕が大好きな人生の先輩がいまして。
ある地方局の社長をしているこの人はとにかくゴルフが大好き。
なのに、好きの度合いと実力が全然釣り合っておらず、ラウンド中のほとんどがチョロばかり。
「あっ!」「うわぁ〜」と、愛らしい声を上げて、毎回安定した低空飛行のゴルフです。
あんたこれまでどんだけゴルフやってきてんだよ。笑
年に4、5回一緒にラウンドさせてもらうこの人とのゴルフに、必ず付いてくるのがオリンピック。
グリーンオンまではあんなに適当にやっているのに、グリーン上での戦いにだけは執念を燃やしています。
ちなみにこの人、パターだけ特別上手いということでもなく、オリンピックはいつも負けないというわけでも全くありません。それでも、この握りのためにゴルフをしていると言っても言い過ぎではないほど、オリンピックが大好きなのです。
ゴルフが好きというより、オリンピックが好きなのかもだな・・・
この先輩は人をゴルフに誘うと、そこでの飲食代は必ず彼持ち。
「今回こそはこちらが・・・」いつもの御礼のつもりで僕らがどれだけ頼んでも、絶対に払わせてはくれません。
こんな感じで人に振る舞うことも大切にしている人ですから、きっとオリンピックでも勝負に勝って賞金稼ぎをしたいのではなく、仲間との真剣勝負を楽しみたいだけなんです。
だからこの人とのゴルフは・・・ゴルフだけでなく、お酒も仕事もみんな喜んでついて行きます。
ある日のゴルフ。
この先輩と仲良しの部下2人、そして僕の4人でラウンドした時のことです。
いつものように始まるオリンピック。のるかそるかの確認もありません。
この人とのゴルフは、問答無用でオリンピックの握りありなのです。
前回は少し勝ったはずなので、今回も大負けしない程度にはなんとかしたいなぁ・・・と意気込んでいましたが、とにかくすこぶるパターの調子が悪い。30cmの鉄パットですら二度も三度も外してしまうほどで、前半ハーフが終わった時点で僕だけ一人まだゼロポイント。
反対に、先輩はこれまで見たことがないほど調子が良く、みんなにランチを振る舞いながら
「キミたち今日は調子が良くないねぇ〜。前回の負けはきっちり取り戻せそうだなぁ。」と、超ご機嫌です。
なんとか取り戻したいと頑張った後半ハーフでしたが、パターの調子は1日戻らず、さらに負けが込んでしまいました。
お風呂に入りながらざっと計算してみると、1万円弱の負け。
オリンピックでこれだけ負けるとヘコむなぁ・・・お風呂から上がると、レストランに集合してお茶を飲みながらの精算大会です。
人生の先輩が見せてくれた ”粋な計らい”
一人だけ社外の人間な僕は、他の皆さんより少し早めにお風呂から出て、先にレストランで待っていることにしました。一番の若者ですし。
他の人たちが上がって来るのを待っていると、まだ髪を少し濡らした先輩が一人でレストランに入ってきました。なんだかまだ身支度の途中のような。
「これさ、今朝買ったんだけど私には合わなくって。だから君にあげるよ。」
そう言って彼がテーブルに置いたのは、僕が普段使っているキャロウェイのボール。
しかも1ダースです。7,000円くらいはするはず。
「え?本当ですか?ありがとうございま・・・」僕が言い切らないうちに、
「まだちょっと用意が途中だから悪いけどもう少し待っててね」
そう言いながらレストランを出て行きました。
え・・・?待てよ・・・?
僕が使っているボールは、ヘッドスピードがそこそこある人向けのシリーズ。
片や、先輩は僕より30歳以上も年配で、このボールはどう考えても彼が使うような物ではありません。
間違えてコレ買うか?
よく良く考えてみれば、彼が使っているボールはその放送局のロゴが入った特別なボール。
そもそもボールを買う必要なんかないのです。
あっ!!そうか!
僕はやっと気がつきました。
彼は、オリンピックで僕が大きく負けていたのを気遣って、それほどマイナスが出たことにはならないようにと、わざわざ売店で高いボール買ってプレゼントしてくれたのです。
それでも勝負ではあるので、会社の部下には見られないように身支度の途中でレストランまで渡しに来て、また風呂場へと戻っていったのでした。
なんという粋なことを・・・しばらくしてから他の人たちと戻ってきた先輩は、涼しい顔をしながら
「さあ!お待ちかねの精算タイムだね!」と、ニコニコしながら点数計算を始めました。
もちろん、いつものようにテーブルはすべて彼の奢りで。
そういうことだったので、まさか他の二人の前で御礼を言うわけにもいかず、帰りがけにコッソリと感謝を伝えました。
ウインクしながら「また付き合ってね」と応えたあの表情、何年も経った今でも忘れられません。
後日、彼の部下の方々とのお酒の席であの日のエピソードを話すことになるのですが、やはり皆さん経験済みのようで「だから彼は厳しくても愛されるんですよねえ」と、口々に自分がしてもらった粋なことを語り始めました。
素敵な人の粋な振る舞いはこうやって語り継がれて、存在感を大きくしていくのです。
見習いたいですよね。