寛永通宝の代わりにマーカーを投げる現代の銭形平次

銭形平次って呼ばれている人がいます。

グリーンでボールをマークするとき、マークを投げたり指で弾いたりしてカップに近づけ、不正にパッティングの距離を縮めるアレです。

本人は見られていないつもりなんでしょうけど、現場は自分の他に3人もいるんです。キャディーがいたら4人。そりゃ誰かにはどこかのタイミングで見られてます。

本来は正義の味方の銭形平次なのに、なんと不名誉なことか・・・。

銭形平次は普通じゃあり得ないけれど、ボールをマークする時にとにかく慎重な人は結構います。ボールの真下、ギリギリのところまでマークを置きに攻めていってる人です。
ボールに触るか触らないか、何ならボールがちょっと前に動いてでも、少しでもカップに近いところへマークしたいと、ボールの真下にこだわってマークするんですよね、欲張っちゃってもう。

(そんなにこだわったところで、パットになんも影響ねぇから!)
そう思ってみんな見ています。見ていますよ。

対照的に、ボールとの距離を一目見ただけでわかる程度に少し空けてマークする人もいます。
そういう人は所作も綺麗で早いです。
どっちがイメージが良いのかも一目瞭然、説明するまでもないですが。

仕事もゴルフも、とにかく大胆だった人の話

ある飲料メーカーの有名な創業者のじいさんがいました。

ゴルフが大好きな人で、その人の仕事の手伝いをした関係で一度だけ連れて行ってもらったことがあります。岐阜県の、バンカーが多いことで有名なゴルフ場です。

「ワシはパターとバンカーが上手い。バンカーが苦手なら教えてやる。」

まだゴルフがそれほど好きではなかった僕は、当然バンカーなんて一番苦手。1ホール目からじいさんのレッスンが始まっていました。

(ああ・・・とにかく二度とバンカーにだけは入れないように気をつけて打とう)
そう思えば思うほど僕のボールを吸い込んでいくバンカー。その都度のレッスンに嫌気がさしていました。

そう、僕はゴルフもそのじいさんのことも、そんなに好きではありませんでした。

で、パターです。

パターも大の得意を豪語するじいさんは、まさに銭形平次そのもの

ボールをマークする度にボールが前へと転がるんです。それも結構な勢いで。

確かにパッティングは上手かったような気もします。ただ、それよりも鮮明な記憶として頭に残ったのは、マークの度にカップ方向へ勢いよく転がっていくボールでした。

カップとどれだけ距離があろうと、毎回1ミリでも1センチでも近づけようとするそのハートの強さ。
それがそのじいさんの精神力を物語っていました。

(あんなに上手いんだから、そんなズルしなくてもスコアは変わらないのになあ・・・)

18ホール全てでそう思っていた記憶があります。いや、本当は違ったかもしれない。3、4ホールだけだったかもしれない。だけど、そのくらいのインパクトがある光景でした。

ゴルフは生き方そのものを表す

そのじいさんが仕事の最中、創業の話をしてくれたことがあります。

現在、大会社になっているその会社は、そのじいさんが戦後の経済成長期に始めた会社でした。

元々バーテンダーだったじいさん、カクテルの味を「ある風味」に味付けするために研究を重ね、その液体を開発して大成功を収めています。

「その材料をな、毎晩毎晩米軍のところへ盗みに行って努力したんだワシは!!」

とにかく頑張ったという自慢話でしたが、これも僕の記憶に残ったのは「盗み」というパワーワード。まあ、その大胆さと狡さもじいさんの大成功の理由なのでしょう。

そのあと会社を大きくする話も、すごいと感心したことと悪いと呆れたことが入り乱れるのですが、僕の記憶ではトータルで、とにかくズルいが勝っています。

商魂逞しかったじいさんの生き方がよく現れていたゴルフでした。

それにしてもバンカー上手かったなあ・・・
あのじいさんほどバンカーショットが上手な人は、これまで見たことがありません。
もっとちゃんと教わっておくんだったな。
ご冥福をお祈りします。