競技会 順位発表の失格欄に輝く「過少申告」の文字

それぞれのゴルフ場では、そのゴルフ場のメンバーが出場できる「競技会」というものがあります。

多いところでは毎週のように。少ないところは月に1〜2回程度ですかね。
そのゴルフ場での真のナンバー1実力者を決める「クラブチャンピオンシップ」や、「スクラッチ競技」以外、大抵の場合は各々が持っているハンディキャップをトータルスコア(グロス)から引いて計算した「ネット」と呼ばれるスコアで順位を決めます。ネットのスコアがパープレー(大概のゴルフ場はパー72)より下回ると、ハンディキャップが少なくなったり、上位に入賞する可能性が出てくるわけです。

毎回、150人前後が出場する競技会ですが、ホールアウトしてスコアを提出すると、全員の結果と順位が掲示板に貼り出されます。スコアが良かった時にはドキドキの瞬間です。
順位が上位から順に並んでいった最下位のさらに下には、競技の失格者の名前と理由が書かれています。

大抵の場合は
「NR」。(ノット・リターン=スタートしたけど戻ってこなかった=競技を途中でやめた)
これは毎回、結構います。体調が悪くなったり、あまりにも調子が悪くて嫌になってしまった人たち。また、人のボールと間違えたままプレーを続けてしまっていた時など、そのままプレーを続けると失格事項に当てはまる措置をしていたことに気がついた時、途中で競技を棄権する場合がすべて「NR」です。
そして人数が少なく、ひときわ目立っている理由が「過少申告」です。

インチキしているわけじゃないのに「過少申告」と表示される事情

初めてこの表で「過少申告」という単語を見つけた時にはビックリしました。
(こんな場所のこんなに注目される時に、そんな不正をする人なんている!?)
ところが、競技会を重ねて、毎回結果表を見ているうちに、おかしなことに気がつきました。
僕が仲良しの人だったり、一緒にラウンドしたことがあって、そんな不正は絶対にあり得ないと確信できる人の名前まで、「過少申告」として失格になっていることがあったからです。

その謎はその後すぐに解けることになりました。
なんと、僕自身が「過少申告」で失格になったからです。

競技会では、自分のスコアやプレー方法が間違っていないかどうかをチェックしてもらう「マーカー」という役割が、同じ組でラウンドしているメンバーの間で決められます。自分が計算したスコアを提出する前に、マーカーにも計算してもらって、スコアが正しいことを証明するサインをもらうのですが、マーカーが適当だと計算が間違っていても気づくことなく、正しくないスコアでもサインをしてしまう場合があるのです。
運営に提出されたスコア表の計算が間違っていても、各ホールの打数を足したトータルスコアが多く表記されていた場合には、運営側で修正してくれます。ところが、少なく表記されている場合には、そのまま失格になってしまうのです。
計算ミスなので、嘘をついた訳ではありません。単純なミスです。

「過少申告」で失格になっていた自分の名前を見て愕然としながら、なるほど、みんなこういう事情で「過少申告」になってしまったんだな、と納得しました。

ゴルフでの嫌な思い出ベスト1の話

さて、僕はこの「過少申告」で、心からイヤな思いをしたことがあります。

以前勤めていた会社にとても苦手な先輩がいました。
僕らに先輩風を吹かせまくり、実力もないのにプライドだけは高く僻みっぽく性格が細かく、僕のやることなすこといちいちケチを付けてくる面倒なタイプです。およそ似合っていないロン毛を束ねていました。彼の見た目が嫌いだったわけではないですけど。いや、結構嫌いでした。

ある時、彼の友人たちが開催するプライベートコンペに出場せざるを得なくなりました。
僕はまだゴルフを始めたばかり、その先輩のこともゴルフのことも好きではないという最悪のステージ。その上、彼と同組にマッチングされていました。
「オマエに負けたらゴルフ辞めなくちゃいけないなあ」
どうでもいい宣言に煽られながら進行していくラウンド。そんな事を言うわりには、彼は全然上手いわけではなく、スコア120前後で最終的に僕と競りそうな状況です。


あるホールを上がった時のことです。
僕はOBなどのペナルティーなしのホールアウトでしたが、チョロの連続と4パットもあって、大叩きになってしまっていました。思い返して数えるのもどうでもいい心境ではありましたが、指折り数えて申告しました。「13です。」
それを言い終わるかどうかの瞬間
「嘘つけ!オマエ、14だろうが!」彼が怒鳴ったのです。
僕は、自分が実際より少ないスコアを申告してしまったかもしれないという恥ずかしさを最初に感じたのですが、それを追い越してきた感情がありました。
(え?なに?コイツ、人の打った数をいちいち数えてたってこと?)
もう一度、ゆっくり思い出しながら数えてみると、彼の言う通り、確かに14でした。
「本当だ。すみません、14です。」
僕は間違いをしてしまった自分の間抜けさを悔やみながら、驚いていました。
(そうか、この人は僕がいつか不正をするかもと思って、ずっと観察していたんだな)

過去、そんな生き方をしてきたつもりはなかった上に、ゴルフは正々堂々自分に正直にを実践していた僕としては、彼からそんな不名誉な疑いをかけれたということがとても悲しく自分が情けなくなりました。
そして、彼のことが心底大嫌いになりました。僕が悪かったのですけど。

人が打っていた数は、意識して数えるもんじゃなし

競技会でのマーカーの役割は別ですが、僕はあの一件以来、人が打った数のことは数えるもんじゃないという考えを持っています。
ゴルフの審判は自分自身ですからね。過少申告でもルール違反でも、自分が許せるならそれで良いと思っています。それでも人から好かれるのかどうかはまた別の話。

彼が叫んだあの瞬間、周りが僕にどんな印象を持ったのかは想像がつきます。ゴルフの不正は、一瞬で人格を否定される爆弾ですから。きっと信頼の回復には時間がかかったことでしょう。
そして、その先輩との間には一生埋まらない溝ができてしまいました。
間違えて申告したことは100パーセント僕の落ち度ですが、疑いの目を向けられて打数を数えられていたことがどうしても許せなかったのです。もしかしたらそんなつもりで指摘したのではなかったかもしれません。ただ、結果的に僕はそう受け止めてしまった。

過少申告は、言うまでもなくあり得ないことです。
数え間違いがない限り、真っ当に生きている人には全く関係のないこと。人に好かれたいと思ってこのブログを読んでいるあなたは興味が湧かない話だと思います。するわけがないんですから。

ただ、ラウンド中に人の過少申告を発見してしまった場合。
この場合は、よく考えなくてはいけません。
見なかったことにするのか、指摘するのか、指摘するならどんな言い方をするべきなのか。
言い方を考え抜いて、これなら大丈夫、と上手に指摘したつもりでも、とんでもない摩擦を生んでしまうことだってあります。

自分が正直にやっていたら、人のプレースタイルはどうでも良くないですか?
なんとなく、パーやバーディでホールアウトしたと思った時だけ、「ナイスパー!」って言っときゃ間違いありません。結果バーディだったとしても、摩擦を生むことはありません。

人の打数は数えない。大嫌いな先輩から学んだことです。